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宿研通信 2月号

気になる宿屋レポート 末吉が行く

宿泊予約経営研究所所長の末吉秀典が注目の宿泊施設をご紹介するこのコーナー。
今月は、「里海邸 大洗金波楼本邸」さんの体験レポートをお届けします。

茨城県 大洗 里海邸 大洗金波楼本邸

夏はたくさんの海水浴客で賑わい、冬は鮟鱇料理を楽しむ観光客で賑わう茨城県の大洗海岸。
その波打ち際に佇み、リニューアルして1年足らず、客室わずか8室という話題の宿屋があります。

今回は「常陸の国・田舎」のキーワードを連想させるストーリーを、
五感で愉しめるモダンな宿屋をご紹介します。

「気忙しい暮らしのざわめきを消し去る海辺の素朴な舞台を設え、
食材王国である常陸国の米、魚、野菜を生かした
上質な田舎料理を目指して日々取り組んでおります。
広大な田園風景と海岸線を持つ常陸国の大らかな田舎の宿として、
精一杯頑張っていきたいと思います。」

客室備え付けの案内ファイルに閉じられている、ご主人の宿に懸ける思いの一節です。

海風香る大洗に立つ
あたたかみモダンな隠れ宿

前身の「金波樓」として明治21年に開業した「里海邸 大洗金波楼本邸」。
海水浴の保養目的の旅館としてスタートした後に、
時を経て、2011年11月にリニューアルオープンしました。

一瞬、その場所が宿屋であることを見間違うような佇まいの里海邸は、
大洗海水浴場から大洗マリンタワーに向かう海沿いの街中の道途中にありました。
地上4階建ての建物の中に入ると、
昔の大洗地方の民家にあった土間を再現した空間が迎えてくれます。

館内の構成としては、1階には土間風のエントランス、
薪ストーブの温かみが心地よい海眺めラウンジとライブラリー。
そして、これまた海の景色が楽しめる掘り炬燵の桟敷席と個室タイプ食事処があります。

大洗地方にあった民家のスタイルを再現した
土間のエントランス
大洗地方にあった民家のスタイルを再現した土間のエントランス
海眺めの掘り炬燵になっている
桟敷形式の食事処
海眺めの掘り炬燵になっている桟敷形式の食事処

館内の通路に設えられている
モダンな休み処スペース
館内の通路に設えられている
モダンな休み処スペース
暮れゆく大洗の海辺を眺めながら
静かに寛ぐラウンジ
暮れゆく大洗の海辺を眺めながら静かに寛ぐラウンジ

2~3階にかけての8室の客室は、全て大洗の海辺を見渡せるオーシャンビュー。
そのうち6室は半露天風呂付きとなっています。
最上階の4階には、檜・岩風呂それぞれタイプの違う展望大浴場と湯上がりラウンジ。
そして大洗の海辺を展望するデッキテラスという構成となっています。

大洗の森が創り出した湧き水が
肌に心地よい檜タイプの大浴場
大洗の森が創り出した湧き水が肌に心地よい檜タイプの大浴場
湯船がまるで海と一体となってみえる
岩タイプの大浴場
湯船がまるで海と一体となってみえる岩タイプの大浴場

時間によって男女が入れ替わる
大浴場の入口
時間によって男女が入れ替わる大浴場の入口
ご主人のこだわり。
オーガニック素材のアメニティ
ご主人のこだわり。オーガニック素材のアメニティ

館内は、田舎の民家を基調とした和モダンスタイル。
特にお客さまから好評なのが、茨城県産の無垢の杉や檜板で構成された廊下や階段です。
素足で歩くと、樹の清潔感と温もりに思わず癒されてしまいました。

また、ラウンジなどに設えられたファニチャーは
地元茨城の家具職人が造り上げたハンドメイドの作品。
無垢な自然素材を巧みに配置し、
茨城の自然との共存を演出されたそれぞれの空間はご主人のセンスの高さを感じさせます。

シーンごとのくつろぎを
巧みに演出した構成の客室

本日宿泊する客室は、
和洋のリビング、ベッドルーム、半露天風呂とテラスの構成をもった「船渡」です。
各客室の名称は大洗の旧地名を付け、
土地の由来をストーリー仕立てで感じさせてくるなど、客室の構成にも一工夫がなされています。

「船渡」の客室。
自然な和洋リビングスペースの間取り
「船渡」の客室。自然な和洋リビングスペースの間取り
潮騒の影響を
受けにくいレイアウトのベッドルーム
潮騒の影響を受けにくいレイアウトのベッドルーム

各客室には
ご主人がセレクトしたCDが
各客室にはご主人がセレクトしたCDが
シンプルな中にも
優しく洗練された化粧ルーム
シンプルな中にも優しく洗練された化粧ルーム

各客室は海辺に近いテラスゾーン、リビングゾーン、寝室ゾーンと3つにゾーニングされています。
それぞれを仕切ることにより、海風や潮騒を体感できるゾーンから、
徐々に静かな眠りを楽しむ寝室ゾーンまでを一つの空間で快適に過ごせるようになっています。

建物の最上階にある展望大浴場はそれぞれ檜と岩で造られた色合いの違う2タイプのお風呂。
大きな窓を開け放てば、潮騒と潮風が共に目の前に大海原が広がります。
月あかりと漁火がほのかに灯る夜の入浴もオススメですが、
自然のパワーを感じるならば、朝日が水昇ってくる平線から頃の朝の入浴もオススメです。

窓を開ければ
海眺めのプライベートな露天風呂に早変わり
窓を開ければ海眺めのプライベートな露天風呂に早変わり
客室のテラスから眺める
神磯の鳥居に神秘的なご来光パワー
客室のテラスから眺める神磯の鳥居に神秘的なご来光パワー

湯上がりのラウンジとテラスでは寝心地の良いチェアが設えられており、
リラックスしながら時の移ろいを楽しんでいると、いつの間にか寝てしまうほどの優れものです。

幻想的な日の出を眺めながらの
リラックスタイム
幻想的な日の出を眺めながらのリラックスタイム
こだわりの寝心地の良い
オーダーメイドチェア
こだわりの寝心地の良いオーダーメイドチェア

湯上がりラウンジでは刻にあわせて
お好きなお飲み物をどうぞ
湯上がりラウンジでは刻にあわせてお好きなお飲み物をどうぞ
ゆったりと寛ぎ爽快な海原を
二人で楽しむテラス
ゆったりと寛ぎ爽快な海原を二人で楽しむテラス

鮟鱇の濃厚な味がしみる
季節感たっぷりの夕餉

夕食のお料理はこの季節にふさわしい鮟鱇料理を含む全10品。
地元の風情を感じさせる創作田舎料理です。
地元の旬材で饗されるのはもちろん、
器、盛り方、彩りの艶やかな演出一つひとつまで、気を配っていることが伺えます。
前菜の磯つぶ貝の旨煮と春菊と平茸の胡麻和えから、料理は始まります。
里芋の茶碗蒸し、造りはボタン海老・ソイ・ホウボウ・カワハギの4品。
白身の刺身が主でしたが、赤からしの水菜やわさび菜を添えて彩りも演出しています。

磯つぶ貝の旨煮と春菊と
平茸の胡麻和えの前
磯つぶ貝の旨煮と春菊と平茸の胡麻和えの前
赤からし水菜とわさび菜が
新鮮な造りを彩ります
赤からし水菜とわさび菜が新鮮な造りを彩ります

次に出てきたのは、里山の田舎料理を思わせる地鶏の炙り焼きの一品。
地鶏の力強い肉質の旨みとさつまいもの甘み、
シンプルに塩もみされた白菜のつけ合わせが絶品です。
輪切りにされたさつまいもがいかにも田舎を感じさせますが、
器や椿、朴葉などで上質さを引き立てる演出がなされています。

笠間焼きの陶器が
上質な田舎料理を演出します
笠間焼きの陶器が上質な田舎料理を演出します
地元野菜と鮟鱇の肝・皮・身を
共酢につけていただきます
地元野菜と鮟鱇の肝・皮・身を
共酢につけていただきます

この時期の主役は何といっても鮟鱇。
外見はグロテスクな深海魚ですが、身・肝・胃・皮・卵巣・えら・ひれは鮟鱇の7つ道具と例えられ、
身は驚くほどプリプリで淡泊、プルプルであり、濃厚であり…と
様々な食感を癖なく楽しめる旬材です。

鮟鱇の肝を酢味噌で溶いた共酢や、
鮟鱇の骨のエキスと味噌でだし汁にした鮟鱇鍋を地元の野菜と共にいただきます。
最後の締めは鮟鱇鍋の残っただし汁の雑炊。コクのある旨みが五臓六腑に染み渡っていきます。

コクと旨みが凝縮された鮟鱇の各部位と
地元野菜を一緒に食す鮟鱇鍋
コクと旨みが凝縮された鮟鱇の各部位と地元野菜を一緒に食す鮟鱇鍋
大ぶりで厚味のある
贅沢なかますの干物焼き
大ぶりで厚味のある贅沢なかますの干物焼き

朝食は、陽光にきらめく海を眺めながらいただきます。
目を引くのはカマスの干物。
大ぶりで肉厚なカマスを、焼き魚として朝からいただけるのは何とも贅沢なこと。
シジミの味噌汁やしらす、地元の納豆など料理の派手さはありませんが、
そのしっかりとした味わいに納得できる朝食でした。

里海邸のご主人である、石井盛志さんと文佳さん。
リニューアルをするにあたって、その土地の文化や自然を
館内や料理に取り入れている全国の宿屋を参考にさせてもらったそうです。
由布院温泉の玉の湯、亀の井別荘、黒川温泉の新明館、
有馬温泉の御所別墅、仙仁温泉の岩の湯などなど。
「茨城の大洗の地にわざわざお越しいただいているので、この土地の良さを感じ、
気づいていただけるようにこれからも努力を続けていきたい」とのことでした。

常陸国の田舎を感じさせる宿「里海邸」。
目前に大洗の海が広がり、晴れたときには青く輝き、
白い波と黒岩のコントラストが美しい景勝の地。
食は大洗のごちそうを堪能し、自然素材に癒される極上の寛ぎ。
この地の文化と自然の良さを凝縮した宿屋は、まさに「良地良宿」。
ご主人の思いが詰まった素敵な宿屋でした。

(文・写真:末吉 秀典)

今月の宿屋データ
宿屋茨城県 大洗 里海邸 大洗金波楼本邸
所在地・連絡先
宿泊予約サイト
 →一休.COM →楽天トラベル →じゃらんnet
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