宿泊施設の経営改善~効果的なコスト削減戦略~
顧客満足度を落とさず無駄だけ減らすには
2023. 12. 26
最終更新 2024. 07. 19
目次
旅行需要が回復傾向にありますが、一方で物価も上昇しています。多くの宿泊施設が思ったよりも利益が残らず、頭を悩ませているのではないでしょうか。
一日あたりの売上の上限が決まっているなかで、「より多くのキャッシュフローを残したい」と考える宿泊事業者もいるでしょう。営業利益を上げる手段のひとつに、コスト削減があります。しかし、食事や顧客へのおもてなしなどの顧客サービスの水準は落とさずにコスト削減を図りたいですよね。
本記事では、効率的なコスト削減方法や顧客に気づかれずにコスト削減できる方法をご紹介します。コスト削減のポイントを押さえて、ぜひご活用ください。
コスト削減と経費削減の違い
コスト削減と似た言葉に、「経費削減」があります。事業で無駄な出費を省くことを総じて「コスト削減」と呼ぶ場合が多いですが、厳密にはコスト削減と経費削減は異なります。最初に経費削減とコスト削減を理解するために、コストと経費の違いを確認していきましょう。
宿泊施設のコスト削減とは
コストは、宿泊施設の運営に際して支払われる費用の総称です。コストにあたる費用の代表例と宿泊施設で適用されるものは以下の通りです。
このようにコストは、事業に直接的・間接的に関係するすべての費用が該当します。これらにかかる費用を削減することがコスト削減です。
宿泊施設の経費削減とは
一方で、経費はコストのうち、事業のために支出された費用です。経費のなかには売上に直結しない費用もありますが、事業の継続や維持に必要な費用はすべて経費として扱います。経費にあたる費用の代表例と宿泊施設で適用されるものは、以下の通りです。
経費になるのか迷った場合は、「宿泊事業の継続や維持に必要か」を判断基準にしましょう。売上には直接つながっていなくても、無くなったら事業継続が困難な項目は経費にあたります。これらの経費を削減することが、経費削減です。
宿泊業における4つのコスト削減
宿泊業において、検討したいコスト削減項目は主に以下の4項目です。
1.人件費
宿泊業で大きなコスト削減ができるのは、「人件費」です。宿泊業はサービス業ゆえに、人件費はコストのなかで非常に大きい割合を占めます。人件費の削減方法で効果がある方法は、業務効率化を図り、稼働人数を減らすことです。
業務効率化を図るには、無駄な工数がないか見直したり、IT化をすすめたりする方法が効果的です。IT化は初期投資が大きく躊躇する宿泊施設が多いですが、トータルのコストで計算すると人件費を大きく削減できる可能性が高いです。また、食事の配膳や清掃業務などを外部委託し、自施設で直接雇用している従業員の稼働人数を減らす方法もあります。
2.材料費
2つ目は、材料費です。食材費や備品費など宿泊サービスの提供に必要な費用です。材料費の見直しには、仕入れ先を見直したり、仕入れ量の調整、代替品への切り替えなどが効果的です。
3.衛生費
3つ目は、タオルやシーツなどのリネン類の管理やクリーニング代を含む、衛生費です。経費削減の方法としては、例えば宿泊施設のロゴ入りのものから、無記名のものに変える方法があります。顧客に気付かれずに削減できるポイントといえます。
4.諸経費
4つ目は、諸経費です。大きくコストカットができる費用に、広告宣伝費があります。これまで定額の雑誌広告に出稿していたものを、SNS広告に置き換えればコストカットできる上に、広告宣伝費の予算内で出稿も可能です。また、WEB広告費の見直しには、広告が本当に効果や成果を出しているのか見直すところから行う必要があります。広告運用を外注している場合は、データを取り寄せて見直しを図りましょう。
宿泊業における経費削減のポイント
宿泊業において、経費削減できるポイントは2つあります。
1.水道光熱費
1つ目は、水道光熱費です。水道光熱費のなかでも、削減しやすいのは電気代です。通路の照明の明度を落としたり、空調の温度を調整したりするなどが方法になります。
空調は適切な温度設定や空調の使用時間の短縮で、5%程度の電力削減が可能です。一般的には、外気温との差を5℃以内に抑えると節電効果があります。しかし、経費削減のために、顧客に不快となる温度設定にしては逆効果となるため、注意が必要です。
近年は電気代や水道代の使用量削減を謳い、SDGsに取り組んでいる宿泊施設に対して「環境に優しい施設」と印象を受ける顧客も増えています。そのため、顧客に経費削減と捉えられずに水道光熱費を抑えられるでしょう。
2.リース費用
2つ目は、リース費用です。コピー機のような事務所で使用する大型の部品や自動販売機、洗濯機・乾燥機などのランドリー機器をリースしている宿泊施設も多いでしょう。
請求書などの文書は以前と比較すると、電子データでやり取りする頻度も増えました。それによって、コピー機の使用頻度が減ったと感じる宿泊施設もあるのではないでしょうか。印刷枚数が1,000枚以下/月の場合には、リース契約を解約して、家庭用のプリンターを使用するのもひとつの手段です。
また、自動販売機やランドリー機器などは契約先によって経費が全く違うこともあります。日々の積み重ねによって効果を発揮する水道光熱費の節約とは異なり、一度の見直しで月々の経費を大きく抑えられる場合もあるため、見直しを検討したい項目のひとつです。
宿泊施設が経費削減に取り組むべき状態とは
経費削減は、コスト削減よりも着手しやすいです。事業が継続できる範囲で、宿泊施設側の都合で削減項目を決定できるためです。
支出金額を減らす際には、すべての経費を洗い出して、無駄がないのかを確認しましょう。無駄があると判断した項目は、上記の代表例を参考にしてどのように経費を削減するか考えてみてください。
宿泊施設がコスト削減に取り組むべき状態とは
経費削減では支出を減らせない場合は、コスト削減に取り組むべき状態です。
しかし、コストは顧客のサービスへ直結する支出のため、過度なコスト削減は顧客満足度の低下につながる恐れがあります。コスト削減をする場合、顧客サービスの維持との両立を常に考えるようにしてください。
人件費を削減して、コストを減らす場合は特に注意が必要です。配置人数を減らしたことが原因となり、顧客サービスの不行き届きが発生すれば、顧客満足度の低下に直結する可能性もあります。また、人員削減は一従業員あたりの業務負担が大きくなり、従業員の不満にも繋がりかねません。
経費削減で、利益の向上が見込めない場合にはコスト削減に取り組むべき状態ですが、コスト削減をする項目には十分注意して、取り組むようにしてください。
コスト削減と経費削減、どちらを優先的に取り組むべきか
自施設で利益を多く残すために、コスト削減と経費削減のどちらに取り組むべきなのか疑問を抱いた方もいるでしょう。
結論としては、「営業利益を上げるには、コスト削減と経費削減の両方に取り組むべき」です。
宿泊施設の運営で、売上総利益(粗利)は以下の計算方法で算出されます。
宿泊業の売上原価は、宿泊施設の商品やサービスの提供に直接的に必要な原材料費や労務費などの費用です。具体的には、食料品費、飲料費、アメニティ費、消耗品費、人件費などが該当します。
一方で、宿泊施設の運営での営業利益は以下の計算方法で算出されます。
宿泊業での販売費は、宿泊施設の販売活動に直接的に関係する費用です。具体的には広告宣伝費、販売手数料、交通運賃、接待交際費などが含まれます。
また、一般管理費は宿泊施設の一般的な管理活動にかかる費用で、経費に区分されます。具体的には人件費、水道光熱費、地代家賃、通信費、消耗品費などです。
つまり、コスト削減によって売上が増え、経費削減によって売上を多く残せるため、結果的に利益の増収に繋がります。
宿泊施設の経営で、利益を出すためにはコスト削減と経費削減の両方にトライするようにしてください。
どの削減をするのかの判断基準は?
まずは経費を含めたコストを書き出して、何にどのくらい費用がかかっているのか全体像を把握します。その中で、自施設で何を削減すべきか、決める際には、削減できる項目のリストアップを行い、優先順位を決めます。この優先順位は次の4つのポイントを基準に決めるようにしてください。
▼POINT
2.削減後の効果が大きい(キャッシュフローの改善幅が大きい)
3.顧客サービスに影響がないもの(経営方針、宿のコンセプトに影響のないもの)
4.継続的な削減につながるもの
特に「3.顧客サービスに影響がないもの」という視点は非常に重要です。その為にも「お客様が自社に何を求めているか」「何に対してお金を払っているのか」を理解しておく必要があります。ここを理解していれば何を削り何に投資すべきかの優先順位が見えてきます。
顧客サービスに影響がない削減の代表例とは
顧客サービスに影響を与えずにコスト削減できる代表例をご紹介します。
一般的な代表例としては、リネン類、広告宣伝費、送迎サービスにかかる費用等があげられます。
リネン類
リネン類はリネンサプライ業者の再選定を検討したり、供給と使用数のバランスをチェックしたりすれば、コスト削減が見込めます。
リネンサプライ業者から宿泊施設へのリネン類の供給数は、不足が生じないように多めの枚数を供給し、供給した分だけの費用を宿泊施設に請求します。リネンサプライ業者の請求額に疑問を持たずに支払をしている宿泊施設は、使用数に対して供給数のバランスが適しているか数えてみるのがおすすめです。供給枚数が必要分を大きく上回っている場合は、供給数を減らすことで大幅なコスト削減に繋がるでしょう。また、連泊利用者のシーツ交換の頻度を抑えるのも、リネン類のクリーニング代の節約につながります。毎日のシーツ交換を不要だと思う連泊利用の顧客も一定数いるため、シーツ交換不要の連泊エコプランを設けることも検討してみてください。
広告費
チラシのような紙媒体の広告にコストをかけている宿泊施設では、広告宣伝費は削減できるコストです。衣食住の一連の体験ができる宿泊施設を選ぶ際、Web上のクチコミや感想などリアルな意見を参考にして宿泊先を選ぶ顧客が近年は圧倒的に多いです。Yahoo!やGoogleなどの検索エンジンで表示されるリスティング広告やSNS広告など、Web広告を採用してみてはいかがでしょうか。
リスティング広告では、指定したキーワード(例:大阪 ホテル)で検索したユーザーに表示される仕組みとなっているため、自分の欲求(どこの宿泊施設に泊まりたいのか)が顕在化した顧客にダイレクトにアプローチできます。
SNS広告では、出稿費用を設定できるため、予算内で広告が打てる点もポイントです。また、SNS広告ではユーザーのSNS内での行動履歴をもとにして広告が表示される仕組みのため、顧客自身の欲求が顕在化していない場合でも、アプローチできるのがメリットです。
紙媒体の広告だと、訴求できる顧客が限られます。一方で、Web広告だと事前の設定をすれば、より多くのユーザーに自動的に訴求できます。
送迎サービスにかかる費用
宿泊施設の送迎サービスの有無は、顧客が宿泊先を決める判断基準にする場合もあります。宿泊施設が運転手を直接雇用し、送迎車両も宿泊施設で管理するケースが一般的です。しかし、最近では運転手の雇用や管理、車両のメンテナンスを一元管理するサービス業者も増えています。送迎サービスにかかるコストを一元管理できるだけでなく、宿泊施設側の工数も軽減にもなるため、一石二鳥のサービスです。
また、近隣の宿泊施設と送迎サービスを共同運行する方法もあります。近隣ホテルの共同運行をしているホテルの代表例にホテルオークラ神戸と神戸オリエンタルホテルメリケンパークがあります。競合とはいえど、メリットを共有し合い、経費を削減していくことは、近隣一体の宿泊施設運営を継続していく上でも大切な取り組みです。
さいごに
今回お伝えした項目は、あくまで一般的なお話です。大前提として顧客満足度を下げずにコストや経費を削減する為には、自社がお客様に対して「何を約束しているのか」を認識しておく必要があります。一般的な「ホテル・旅館」では必要とされていることも、自社を選んで訪れてくれるお客様は必要としていないこと・重要視していない事であれば、削減してもいいという判断が取れます。
そういった意味でも、顧客へのサービスを継続させながら利益もアップできるコスト削減方法として、まずは「自社と顧客を理解すること」から始めるべきなのかもしれません。
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きっと、新しい一手が見つかりますよ。