宿泊業界のこれから。2024年はどんな年?「景気」と「国の動き」から2024年のポイントを解説
2024. 01. 10
最終更新 2024. 07. 19
目次
2023年は観光・宿泊業にとって前向きな変化が多くみられた1年でした。
世の中の旅行機運が高まり2019年と同等か上回る月も見られ、人の動きは完全に戻ったといえます。しかし、需要が高まる中、供給側の「人員不足」や「物価上昇」の問題が深刻化し『採算は合っていない』という宿泊施設が多かったのではないでしょうか。
本稿では、2024年は一体どのような年になるのか、宿泊業を取り巻く景気(物価)の見通しと、国の施策を簡単にご紹介し、2024年に考慮するべきポイントを解説します。
宿泊業を取り巻く2024年の景気の見通し
2024年の国内の景気は足踏み状態か
2024年の景気の見通しについて、2023年末に帝国データバンクが発表した「2024年の景気見通しに対する企業の意識調査」によると、2024年の景気を「踊り場局面(足踏み状態)」と回答する企業の割合が最も多く、悪くはならないが、大きな飛躍もなさそうな状態と解釈できる結果となりました。
懸念点として声が多かったのが、「原油・素材価格(の上昇)」が最多で、次いで「人手不足」と「金利」と答える割合が急上昇していました。2023年に引き続き「物価動向」「人手不足」が景気回復の足かせとなることが国内産業全体に言えることとなります。
では、観光・宿泊業はどのような見通しなのでしょうか。
参考として、JTBが発表した「2024年の旅行動向見通し」によると、日本人の動向について『物価高騰による家計の厳しさに加え、高止まりする旅行費用や旅行意欲の落ち着き(リベンジ消費の一巡)などが影響し、旅行者数は伸び悩むと考えられる。』と考察し、『継続する物価高により生活環境は依然として苦しい状態が続くことが想定される。』と予想。
2024年の日本人の国内旅行者数は昨年2023年に比べ2.8%減と試算しています。
一方、訪日外国旅行客は昨年よりも31.3%増えると予想しており、宿泊事業者において、2024年を飛躍の年にできるか否かは、インバウンド集客が鍵と言えます。
ただ、このインバウンドは地域によって偏りが目立つようになっています。
原油・素材価格の上昇は落ち着くが...
2023年で最も景気に影響の大きかった物価高騰について、2024年はどのような見通しになるのでしょうか。
これまで度々取り上げている帝国データバンクの「食品主要195社」価格改定動向調査―2023年動向・24年見通しによると、2023年末時点で予定されている食品値上げは、2023年の6割減とされており、度重なる値上げラッシュは起きないとしています。
ただし、値上げ率は直近2年の平均14~15%と比べて高く17%。この先の値上げのタイミングは2024年2月と4月にいくつか計画されており、加工食品や冷凍食品類が主な対象となっています。2024年は、これまでにあった価格据え置き・内容量減による「実質値上げ」ではなく、「本体価格の値上げ」が主となることが分かっています。
2024年の値上げについて、ひとつ注目すべきポイントがあります。
それは、これまでは原油・素材価格の上昇による物価の高騰がほとんどでしたが、2024年は先述の人材不足による「人材確保」のための「原資確保」に向けた値上げが進むと想定されています。先述の通り、宿泊業のみならず全産業においても、人材不足によって事業運営が制約され、人材不足が事業成長のボトルネックとなっています。
この状況打破のための人材争奪戦が加速すると予想され、宿泊業もこの争奪戦に勝ち残る必要があり、価格転嫁、労働環境の整備、自社の将来性を向上させることが重要となります。
②人材確保のための原資確保を価格転嫁で実現できるかどうか
宿泊業に関係する国の動き
地方へのインバウンド誘致が焦点になっている
2023年末に行われた観光庁の会見において、
記者からの「2024年に注力することとは?」の質問に対し高橋長官は、「地方へのインバウンド誘致」と答えています。
この「地方へのインバウンド誘致」のための戦略として、地域の観光コンテンツの創造、磨き上げ、高付加価値化を考えており、この戦略に紐づく支援事業が2024年度は数多く計画されています。
実際に、観光庁が発表した「令和6年度予算決定概要」を見てみると、令和6年度当初予算額が令和5年度予算額よりも64%増えており、そのなかで最も多くの予算が充てられているのは、『地方を中心としたインバウンド誘客の戦略的取組 』で、地方へのインバウンド誘致に向けた力の入れようが伺えます。先に述べた、インバウンドの地域格差を少しでも埋める目論見があります。
補助金、支援事業の方針
国として地方へのインバウンド誘致が焦点になっているため、インバウンドの受け入れに関する補助金、支援事業が数々用意されています。
しかし、地方の受け入れ環境に力を入れる分、支援対象の多くが地方公共団体や、DMOとなっており、国から直轄で宿泊事業者が受けられる支援事業はこれまでに比べ少ない印象です。
ここでは、少ないながらも宿泊事業者が関係する支援事業をピックアップしご紹介します。
2024年の国の注力ポイント
①インバウンドに関する取組を強力にバックアップ
②施設の設備面の支援よりも、地域観光の環境整備、情報発信にお金が使われる
③外国人労働者を増やし、マッチングイベントも増やす
国や自治体の支援事業を受けるためには、その事業の意図をよく理解し、事業目的に沿った取組であることを説明することが重要です。
さいごに
2024年も多くの宿泊施設で「人材」が多くの事柄のセンターピンとなることでしょう。それは、人材不足のみならず、独自化・差別化、付加価値の創造においても「人材」が鍵となります。そして、その人材は他の産業との競争となります。
近年、多くの企業が人手不足の対策に取り組んでいますが、単純な給料の待遇改善でも解決しないようです。また、働き方の改革、職場環境の改善に取り組んでも思うように人が集まらず、定着も十分ではない場合もあるようです。特に若い世代はこの傾向が顕著と言われています。
SNSやWEBサイトで容易に情報が手に入る時代となり、最近の就活生や転職希望者は企業だけでなく、業界のことをよく調べています。1企業が業界平均を上回る高給を提示しても、その企業と業界に成長性、将来性がなければ人は集まらないと言われています。
海外の就活事情では、こういった外見(条件)はよく見えるが、中身が伴っていないものを『レモン』と呼び揶揄されています。(反対の意味はプラム)
宿泊業は、日本を代表する観光産業であり、その観光産業は現在の日本で最も成長の可能性がある産業と言われ、将来性は他の産業を一歩リードしています。
宿泊業に人材が集まるようになるためには『プラム』になる必要があり、給与や待遇、働き方や職場環境の改善と同時に、成長性や将来性のある業界であることもアピールする必要があると考えます。