宿泊施設のリピーター戦略!リピート率の高い宿の共通点とは?具体的な対策例やアイデアもご紹介
2024. 01. 18
最終更新 2024. 07. 16
目次
宿泊業に関わらず、自社ビジネスを成長させる方法として、新規顧客の獲得か、既存顧客へ施策を打つべきかの選択がよくされます。どちらがベストなのかは、市場の規模や特性、ターゲットの特性、自社の経営資源を鑑みる必要があり、ここで答えが出せるものではありません。
本稿は、比較的すぐに実践できる「既存顧客への施策」についてクローズアップしてみたいと思います。
ホテルの顧客のうちリピーター比率は10%~30%が最多
ホテルにおいて、宿泊者のうちリピーターが占める割合はどれくらいが平均なのでしょうか。
ひとつの基準として、財団法人日本交通公社が調査した内容によると、調査対象の37.7%の宿泊施設がリピーターの比率を「10%以上 30%未満」と回答しおり、この比率が最も多い結果となっていました。
さらに、リピーター比率別に客室稼働率をみると、リピーター比率が高い施設では客室稼働率が高いことも分析結果からわかりました。人気の高さとリピートしたくなることには、相関関係があるとみえてきます。
ただし、この見方には注意が必要で、稼働率の高さ、リピーター率の高さには市場浸透率※が大きく関与しているので、客室稼働率を高めるには新規顧客も含めた顧客数が重要になります。(詳しくは「ダブルジョパディの法則」をお調べください)
※市場浸透率:その市場において特定の期間内に一度でも購入した人の割合。期間内のシェア率ともいえる
宿泊業界でリピーターが重要な理由
1日あたりの客室稼働数に上限がある宿泊業界で利益を上げるためには、リピーター獲得は無視できない施策です。リピーター獲得のためには、単なる宿泊先としての機能を超えて、顧客との強い結びつきを築くことがますます重要視されています。リピーターは単なる滞在者ではなく、宿泊施設にとって長期的な成功に不可欠な存在だからです。
まずは、リピーター獲得が重要な理由をチェックしていきましょう。
集客にかかるコスト削減
一般的に新規顧客の獲得よりも低コストで集客ができることが、リピーター施策のメリットと言われています。また、閑散期や平日などの客室稼働率が上がりにくいときに、リピーターが獲得できていれば、大きな落ち込みは防げるともされています。
新規顧客の獲得には、広告の出稿費やキャンペーン費用などの広告宣伝費だけでなく、集客に携わるスタッフの人件費も必要です。しかし、リピーター獲得では、これらのコストの大幅削減が可能となります。
マーケティングの世界では、新規顧客獲得コスト(アクイジションコスト)とリピーター獲得のコスト(リテンションコスト)では、5倍の差があると言われ、コスト削減の観点でみると、リピーター獲得はより低コストで集客できる施策となります。
クチコミによる宣伝効果
自施設での宿泊に価値を見出しているリピーターは自施設の商品(客室や食事、温泉など)や接客サービスを、身近な人におすすめしてくれます。ネット上やSNS上で知らない人が評価・おすすめするものよりも、身近な人がおすすめするものの方が購買のハードルがグンと下がります。
高単価商品を購入する可能性が上がる
リピーターは、自施設の商品やサービスに一定の理解や信頼を寄せているお客様です。
記念日やご褒美でグレードアップしたプランを選択したり、同系列の宿泊施設を利用したりと、リピーターは自施設や自社グループの売上アップに貢献する可能性が非常に高い存在と言えます。
新たなビジネスチャンスのヒントを与えてくれる
リピーター集客の重要性とは少し異なりますが、リピーターの存在は新たなビジネスチャンスのヒントを与えてくれます。理由は、リピーターの方とは比較的コミュニケーションが取れやすく、自社分析の調査対象としてとても有益な存在であるからです。
例えば、「なぜ他社ではなく私たちの宿に来ているのか」「どうゆうときに訪れようと思うのか」などを知ることは、自社の価値を再認識することに繋がります。
リピーターの中でも特に有益なのは、平均的な利用者像と大きくかけ離れているリピーターです。こういった少数派の声や行動は、競合がカバーできていない事柄や価値に気づくきっかけになり、新しいビジネスのヒントを与えてくれます。
宿泊施設でリピーターを増やす3つのポイント
宿泊施設でリピーターを増やすためには「記憶に残る体験」「定期的なコンタクト」「ローカルへのアプローチ」この3つを押さえる必要があります。ポイントをそれぞれ詳しく解説するので、リピーターを作る施策のフックにしてください。
記憶に残る体験で「また来たい」と思うファンを増やす
お客様がふと「旅行に行きたい」と考えたとき、お客様の想起のなかに自施設の存在がなければ、リピーターにはなり得ません。お客様の記憶に残るには、印象的な体験と人を記憶してもらうことがポイントとなります。
お客様に「また行こう」と思ってもらうために、
宿泊施設で取り組める方法を2つご紹介します。
1つ目は、短い滞在時間でも人と人との関係性を築くことです。
「あの人にまた会いに行きたい」そう思わせることができれば、リピーター確定です。そのためには、コミュニケーションの中で、小さな感動を少しずつ提供するのが有効です。
すぐに実践できる小さな感動体験には「笑顔で、目を見て、きちんと挨拶をする」「献身的な姿勢を見せ名前と顔を覚えてもらう」ことが挙げられます。
プライベート感重視の宿を除き、できるだけお客様とコミュニケーションを取り、スタッフ個人の個性を認識してもらう行動が大切です。
2つ目は、最後の別れで少し感動させることです。
多くの宿泊施設で、チェックアウト時にお客様をお見送りする理由は、最後の別れで少し感動させてリピートに繋げるための施策のひとつだったわけです。
極端な話ですが、途中のサービスがあまり良くなくても、最後に感動を与えられればお客様の記憶に残ります。滞在中、お客様が不満を漏らしたとしても、誠心誠意対応して不満が解消されれば、評価され記憶に残る体験になります。
リピートしてもらうためには、記憶に残るサービスを提供してスタッフに好意もってもらうことが重要なポイントです。
定期的なコンタクトで接点を持ち続ける
定期的にお客様とコンタクトをとって、接点をなくさないこともリピーターを増やすポイントです。
顧客が周辺地域を再訪する際に自施設を忘れていれば、選択肢にすら入らない可能性があります。お客様が自施設を宿泊地として選択するために、定期的なDM送付やメルマガ送信、SNSでの発信などで存在を知らせ、コンタクトをとり続けることがリピーター獲得の基本です。
ローカルのお客様をしっかりと囲う
ホテルをリピートしたい理由の1位は「宿泊料金の納得感」ですが、
意外にも第2位は「立地や交通の利便性」です。
立地や交通の利便性には、2つの視点があります。1つは、「目的地からホテルまで行きやすさ」、2つ目は「家からホテルまで行きやすさ」です。駅から近ければ、立地条件は良好といえますし、仮に駅から離れていても最寄駅からの送迎サービスがあれば、宿泊施設までのアクセスは可能です。
自施設が駅から近くにない場合でも、ローカルのお客様が自施設を目的地としていれば、リピートに繋がります。自施設を目的地にしてもらうためにも、アクセス圏内の顧客への販促は非常に重要です。
アクセス圏内のお客様へは、宿を提供するだけでなく、プラスアルファの対応をして「自施設に宿泊することで顧客が得られる価値」を提供する必要があります。たとえば、記念日やご褒美などに利用できる、日常に寄り添ったプランの紹介です。
また、お盆期間や年末年始の「帰省」利用の場合には優先的にご案内できるように客室を確保しておくなどの施策もおすすめです。
リピート率が高いホテル・旅館の共通点は「スタッフ」
ここまででお気づきになったかもしれませんが、リピート率が高いホテルや旅館に共通する秘訣は、「スタッフ」にあります。お客様に感動を与えられるスタッフこそ、高度な付加価値を生み出せる存在であり、画一的なサービス提供ではなく、スタッフの個性を活かしたバラエティー豊かな「おもてなし」をすることがリピーター獲得の大きなポイントでもあります。
ビジネスでは、ブランドが顧客へ提供できる付加価値は次の4つと言われています。
①機能的価値
②感情的(情緒的)価値
③自己表現価値
④社会的価値
4つの価値は、①が土台となり、②、③、④の順で提供できるようになるとブランドとしての付加価値が高くなります。
宿泊施設では、「一晩寝泊りできること」が機能的価値になります。そのため、機能的価値があるだけでは、お客様は感動しません。何かしらのサービスでお客様の心を動かしてこそ、感情的価値が生まれます。感情的価値が生まれれば、顧客の記憶に残り、ファンとなる可能性がぐっと上がります。もちろん、宿泊しているお客様が感動するシーンはさまざまでしょう。スタッフの気遣いが嬉しく感じられて感動する方もいれば、食事の美味しさや盛り付けの美しさに感銘を受ける方もいます。地方の文化に触れられたことに感動する方やゆっくりと休めたことに感謝をする方もいます。さまざまな場面で感動は生まれますが、共通項はスタッフがお客様への感動の提供のために創意工夫し、実践をしていることです。では、お客様に感動を与えられる人材を育成するポイントはあるのでしょうか。
リピート率の高い「スーパーホテル」「星野リゾート」「東京ステーションホテル」の施策をチェックしてみましょう。
スーパーホテルのリピート率は70%です。チェーン展開しているとはいえ、リピーターが非常に多く、客室稼働率も90%の人気のビジネスホテルです。
お客様に満足を超えた感動を提供するために、自発的に動ける人材育成に力を入れています。お客様を感動させるためには、「感性」と「人間性」が必要と考えており、社員の自分磨きを支援しているのが特徴です。また、一緒に働く仲間が最も大切な人材と考えているため、従業員間での話し込みを重視しています。話し込みを通じて、ひとりひとりの感性や人間性を磨き、顧客に感動を与えられる「自発型感動人間」の育成に取り組んでいます。スーパーホテルのリピート率の高さには、ハード面へのこだわりも関与しています。ビジネスマンをターゲットにしぼり、8種類の選べる枕をはじめ、寝具にこだわったり、防音設計がなされた客室にしたりとビジネスマンがゆっくりと休息できる環境づくりに取り組んだ結果が驚異のリピート率の高さなのです。
星野リゾートの星野社長は、「社員にやる気を出させ、能力を100%発揮してもらうマネジメント」を経営者がすべきだと考えています。そのため、各施設の総支配人やユニットリーダーは立候補制にし、「やらされ感」を排除しました。星野社長の考えによって、現場で働く人全員が120%の能力を発揮できる環境になり、お客様への感情的価値が提供できるようになりました。その結果がお客様のリピートです。
また、星野リゾートでは「お客様の声では上がらないニーズは独自のこだわりとして提供することがおもてなし」との考えのもと、各施設でこだわりのサービス提供をしています。たとえば、星野リゾート青森屋では、スタッフは津軽弁で話します。馬の産地にちなんでポニーが荷物運びをし、青森の郷土料理を中心に提供し、夜にねぶたショーをするといった青森の地らしいモノやサービスの提供にこだわっています。
これらのサービスは、「お客様を喜ばせたい、心から楽しんで滞在していただきたい」という考えを持ったスタッフの声から創り出されたものです。お客様が感動している様子を目の当たりにすれば、コンテンツを創り上げたスタッフも感動します。社員のモチベーションも上がり、更なる感動の提供へとつながっていくマネジメント方法となっています。
東京ステーションホテルでは、「スタッフが幸せでなければ、お客様に幸せを提供できない」と考えています。
スタッフ全員が東京ステーションンホテルで働いていることを誇りに思えるように、雇用形態や業種に関わらず、スタッフ全員に名刺を作成しています。スタッフが知人に働いている場所を名刺を渡して伝えられることは、スタッフの幸せに繋がると考えたのです。
東京ステーションホテルで、お客様への感動を与えられたエピソードに「コロナ禍でのビュッフェスタイルの復活」があります。自施設自慢のビュッフェでお客様に朝食を提供したいという現場スタッフの声を受け、わずか3ヶ月で復活させました。衛生面で安全に配慮された朝食は、コロナ禍の当時、お客様に感動を与え、更なる東京ステーションホテルの価値の上昇に繋がりました。人材を大切にし、スタッフの自発的な声によってお客様に感動を与えられている代表例です。
宿泊施設のリピーター獲得│アイデア・事例
お得感で再訪を促す
王道ではありますが、次回来店に繋げる為に、次回使える宿泊券を渡したり、会員制度やポイント制度を導入することが挙げられます。顧客はポイント獲得や会員特典をメリットとして再来店してくれるようになります。
ホテル楊貴館(https://www.hotelyokikan.jp/)では、リピーターのポイント施策として、お客さまの余った時間をお預かりする独自の「預時間通帳」サービスを行っていることを2008年の宿ブログで公表されています。
一般的なポイント制度であれば、1回利用することで〇ポイント、だったり宿泊金額によって〇ポイントといったカウントをすることが多いですが、こちらのホテルでは、差滞在時間の差分をポイントにしています。
このホテルの規定チャックインは14時、アウトは12時の場合<最大22時間>の滞在が出来ますが、16時にチェックインし翌日の10時にはチェックアウトした場合、ホテルでの実質滞在時間は<18時間>。
その場合、預時間通帳に差分の<4時間分>のポイントが付きます。そして何度か宿泊し、通帳が【22時間分】に達すると、1泊朝食付の無料宿泊をご招待できるサービスになっています。
※参考元:油谷湾温泉 ホテル楊貴館のお知らせ・ブログ
※2008年宿ログの情報を参照しご紹介しています。アイデア視点としてご参照くださいませ。
ここぞというタイミングでは特別感を演出
記念日等の特別な日を祝う為に利用したお客様は、思い出の場所になりやすく、満足度が高いとまた「来年もここで祝おう」という心理にも繋がります。ディズニーホテルでもリピーターのお客様で最も重要視している情報は「結婚記念日」と「誕生日」だといわれています。
定期的なメルマガで常にコンタクトをとっておくことも重要ですが、ここぞという「タイミング」では、メルマガの他に、割引付きの招待券を少し上質なDMで郵送するなどの演出は特別感が増して効果的です。
郵送はコストがかかりますが、メールマガジンに埋もれることもなく、物理的に開封して頂きやすくなります。
お誕生日月には「お誕生日のお祝いとご優待特典」や、結婚記念日であれば、「記念日を祝うプランのご紹介と特典」等で、今年も行こうか!と宿を思い出して頂くことに繋がります。
白玉の湯 華鳳(https://www.kahou.com/)では会報誌及びDMに記載されているパスワードを入力すると、自社HPでリピーター限定プラン画面へ入り、そこで予約する流れを取っています。自社HPでの予約入口を変えることで、リピーターへの「特別感」の演出もされているうえに、割引券や優待券を補完する手間も省ける仕組みになっています。
顧客の声を集めるにはアンケートもまだまだ有効
現状の自施設の顧客満足度を測ったり、スタッフのモチベーションを上げたりできるのは、お客様の声です。お客様の声を集めるには、アンケートが有効です。
東京ステーションホテルでは、スタッフルームにお客様の声を掲示しています。清掃スタッフの仕事ぶりに対して、お客様から喜びの声を寄せられることも多いと言います。お客様対応をしないスタッフでもアンケートを通して聞こえる声が、モチベーションをアップさせています。
現状の顧客満足度を測るにも、アンケートは有効な方法です。アンケートを作る際、自施設が知りたい項目を、お客様が答えやすいような質問にするのがポイントです。回収率を上げるために、フロントにアンケートを持参してくれたお客様に、お菓子などのプチプレゼントを用意するのもおすすめです。
さいごに
宿泊施設でリピーターを増やすためには、お客様の心が動くような体験を提供できる人材がキーポイントです。しかし、人材育成は長期的な視点で取り組むべき施策です。短期的な視点で、リピーターを増やすためには、クーポンなどのリピーター特典を用意することも効果的です。
リピーターを増やせれば、集客にかかるコストや手間が減り、浮いた時間で、顧客満足度の更なる向上に向けて、別の施策に取り組めます。お客様のニーズに寄り添い、さらにはニーズ以上の感動を提供できれば、リピート率の向上につながります。ぜひ、この記事を参考にして、リピーターを増やす施策に取り組んでみてください。