
ホテル・旅館のキャンセルポリシー完全ガイド!OTA対応&再販戦略を網羅的に解説!
2025. 04. 23
最終更新 2025. 04. 24

日々の業務で「キャンセルの対応に追われている」「キャンセルが多いな」と感じている宿泊施設の皆さん、その感覚は決して錯覚ではありません。
2024年、消費者庁が公表した「キャンセル料に関する消費者の意識調査報告書」は、宿泊業界に小さな衝撃を与えました。それは、過去1年間にキャンセルを経験したサービスの第1位は、航空予約でも飲食や通販販売、理髪店でもなく 「ホテル・旅館等の宿泊」でした。
その割合は、2,000人中、30.6%もあり、2位の航空機15.2%の倍をつける結果です。
出典元:キャンセル料に関する消費者の意識調査 報告書(令和6年1月消費者庁消費者制度課)
本記事では、GWや夏休みなどの旅行シーズンを目前に、特に宿泊業界に入って間もない方々にキャンセル規定やキャンセル表示に関する基礎知識を中心にご紹介します。また、後半には単なるキャンセル防止策ではなく、キャンセル発生を前提とした「再販戦略」まで、宿泊施設のキャンセル対策を網羅的に解説します。
目次
1. なぜ宿泊予約はキャンセルが多いのか
冒頭でご紹介した通り、ホテル・旅館などの宿泊業は航空機や店舗商売と比較してもキャンセル率が突出して高い業界です。この背景には、旅行予約特有の消費者行動パターンと業界構造が複雑に絡み合っています。弊社のご契約施設様のデータを見ても、平均キャンセル率は30%前後の施設様が多く、繁忙期には50%近くまで上昇するケースも珍しくありません。
なぜ、こんなにもキャンセルが発生するのか。
ここでは、先述の「キャンセル料に関する消費者の意識調査報告書」の内容と、その結果を基に開催されている全12回の研究会の会議資料を参考に考察。6つの構造的要因にまとめ、経営者・担当者が押さえるべき示唆を解説します。
宿泊予約が「キャンセルされやすい」6つの構造的理由
宿泊予約は数週間〜数か月前に「とりあえず確保」する習慣が定着しており、その間に予定や体調が変わるリスクが高い。キャンセル理由の1位は「本人都合」30.5%、2位が「同行者都合」21.7%であったことからもこのことが言える。
台風・水害・大雪・交通機関のトラブルなど、宿泊当日までに発生し得る事象が多い。特に季節性が強い真夏、真冬は自然災害由来のキャンセルが増加する。
当該調査では予約経路の78.7%がネット経由になっており、無料キャンセルや◯日前まで0円表示が「複数施設を押さえ直前に一本化する」という行動を助長していることが分かり、懸念されている。
施設ごとにキャンセル規定のバラつきがあり、商習慣(一般常識)としての宿泊予約のキャンセル料発生タイミングが存在しないことも要因に考えられる。例えば、特定の取引において発生する「クーリングオフ制度は〇日間」のような統一認識が取れない。当該調査でも、20.2%が「覚えていなかった」と回答。説明不足への不満は29.3%にも上っている。
特にホテルで多く取り入れられている「ダイナミックプライシング」で料金が日々変わり、より安いプランを見つけると既存予約をキャンセルしやすい。予約後もいくつかの施設の情報を回遊するなかで心変わりもしやすい。インターネット技術による比較のしやすさも間接要因にある。
家族・グループ旅行では一人の都合変更が全体に波及しやすい。同行者都合によるキャンセルは21.7%と高水準であった。
このように、宿泊予約は「先に押さえてあとで確定する」という一般商材にはない特性をもち、事業者からみるコントロール不能の変数要素の多さと予約環境・検索環境の利便性がキャンセル発生率を押し上げています。この構造に施設側は①予約前・予約後画面での規定の可視化、②キャンセル締め切り前のリマインドの導入。といった対策で不要な“仮押さえ”状態の早期解決や直前キャンセルの抑制を図らないといけません。
話が先になりますが、「① 予約前・予約後画面での規定の可視化」に関連することとして、先の消費者庁の調査によれば、「キャンセル料が発生することを知っていた」という事前認識が、キャンセル料支払いへの納得度を大きく左右します。実に64.0%の消費者が「事前に説明を受けていたからキャンセル料の支払いに不満を感じなかった」と回答しています。つまり、キャンセル規定の事前把握は、単なる情報提供ではなく、後のトラブル防止となる重要なプロセスといえます。このキャンセル規定の事前把握段階では、単純なキャンセル規定の内容明示だけではなく、追加情報が必要です。具体的な内容は以降の章で紹介します。
2.宿泊業界における標準的なキャンセル規定と免除の基準
宿泊施設のキャンセル規定は「施設特性 × プラン特性 × シーズン」の掛け合わせで決まりますが、日本旅館協会のモデル規約や弊社が標準的に採用しているベースは、平常期は概ね下記のレンジに収まります。
■2~3日前:宿泊料の30%~50%
■前日キャンセル:宿泊料の50%~80%
■当日キャンセル:宿泊料の100%
■無断キャンセル:宿泊料の100%
これらの規定は通常期における標準的なものであり、繁忙期には異なる基準が適用されることが一般的です。特にお盆休みや年末年始といった期間では、料理の食材発注の関係から、14日前あるいは、それ以前からキャンセル料が発生する施設も少なくありません。
キャンセル規定の設計は、単に業界慣習に従うだけでなく、自施設の予約リードタイム、客層特性、繁閑差、食事提供の有無などの要素を運営状況に応じて最適化することが重要です。
★注意:事業者に生じる損害の金額を超えたキャンセル料を定めた場合、法律上(消費者契約法)無効になります。
キャンセル料が免除される代表的なケース
OTAを通じた個人旅行のキャンセルは、基本的に施設と予約者間の取り決めに委ねられますが、対応の参考として国土交通省が定めている「標準旅行業約款」の免除基準を知っておくことは大切です。
以下に一般的なキャンセル料免除のケースとその判断ポイントを整理します。
一般的なキャンセル料免除の4つのケース
1. 移動困難な外的要因が発生した場合
台風・豪雨・豪雪などの自然災害や、交通機関の事故による運休など、
予約者の意思とは無関係の障害が生じた場合。
2. 予約者本人の急な体調不良
入院や通院を要する急病・怪我など、客観的に移動が困難と判断できる状態。
3. 予約者の家族・親族に関わる緊急事態
身内の不幸(通夜・葬儀)や重病、その他やむを得ない家庭の事情が発生した場合。
4. 施設側に起因する問題
予約処理ミス、設備故障、臨時休業など、施設側の事情によりサービス提供が困難となった場合。
キャンセル料免除の判断ポイント
消費者庁の調査分析によると、外的要因によるキャンセルに対して料金を請求されると、消費者の不満度が著しく高まることが確認されています。特に自然災害や交通機関のトラブルなど、予約者の責任外の事象については、柔軟な対応が長期的な顧客関係構築には必要で、この場合は免除が妥当な判断といえるでしょう。
一方で、免除基準が曖昧だと「特別扱い」の要求や判断の揺れが生じるリスクがあります。そのため、以下の点に留意した免除ポリシーの策定が組織運営には必要になります。
- 判断基準の明確化と一貫性
医師の診断書提出など、客観的な判断材料を設定し、スタッフ間で対応にブレが出ないよう基準を共有する。 - 免除条件の具体的な告知
自社ホームページでは特に、どのような場合に免除対象となるかを具体的に明記する。 - 柔軟性とビジネス的判断のバランス
厳格な規定適用(損益)と顧客関係維持のバランスを考慮し、状況に応じた適切な判断を行う。
特に注意すべきは、「予約から長期間ある時点でのキャンセル」に対するキャンセル料請求です。(例えば、21日前など)消費者庁の調査によれば、この場合のキャンセル料徴収の目的が予約者には理解しづらく、不満を感じる傾向が強いことが示されています。早期キャンセルには「また、お待ちしております。」と前向きな言葉を添え、再来訪意欲を促進することが長期的な顧客獲得のためには必要な判断のかもしれません。
3. 納得感を高めるキャンセル規定の表示・説明ポイント
4.OTAでのキャンセル料徴収フロー(支払い方法別)
近年、予約サイト(以下、OTA)を通じて予約するケースが非常に増えています。OTAでの対応は、支払い方法によって大きく異なります。
現地決済予約のキャンセル徴収
現地決済予約については、すべてのOTAが「キャンセル対応は施設と予約者間で直接行う」という原則を明示しています。このため、現地決済予約のキャンセル料徴収について予約サイトに対応を求めても、基本的には応じてもらえません。ただ、何度もキャンセルを繰り返しているような悪質性がある場合は、予約サイトに報告することを推奨します。
★注意:海外サイトは事情が異なるので、個別サイトごとに確認する必要があります。
【直接、キャンセル料を徴収する代表的な手順】
① メール(記録保持用)と電話(説得・交渉用)の両方を活用
メールでは必ず以下の内容を明記します。
・キャンセル日時とキャンセル理由(お客様申告)
・適用されるキャンセル規定(パーセンテージと具体的金額)
・支払い期限と支払い方法(振込先)の案内
・未払いの場合の対応(必要に応じて)
② 段階的な催促と記録
例えば、
1回目:丁寧な案内メール
2回目:電話による確認(3日後程度)
3回目:支払い期限を明記した最終案内(1週間後以降)
高額案件(10万円超):書留での通知(配達証明)も検討
これら対応履歴と連絡内容をすべて記録に残し、いつ・どのような通知を行ったかを
明確にしておきます。これは後のトラブル対応や法的措置の基礎資料となります。
③ 未回収時の対応オプション
・施設内、グループ施設内ブラックリストの登録(再予約防止)
・OTAへの報告(悪質なケースのみ)
・キャンセル料を回収する代行業者の検討
・少額訴訟制度の活用(60万円以下の場合。また、裁判所へ出向く必要あり。)
・弁護士相談(費用対効果を考慮)
・消費者センターへの相談(解決事例の参考を聞いてみる)
弁護士へ交渉を依頼しても着手金として10万円取られる場合が多いので、
まずは消費者センターへ相談することから始めるとよいでしょう。
※消費者ホットラインの電話番号:「188」これは、全国共通の電話番号で、
最寄りの消費生活センターや消費生活相談窓口を案内してくれます。
事前カード決済予約(オンライン決済済み)のキャンセル徴収
この場合、キャンセル料徴収が発生した予約サイトが、自動徴収なのか、施設が管理画面から手続きをしなければいけないのかを把握しておく必要があります。国内サイトは概ね同じ対応となりますが、海外サイトは各社により異なります。
【国内サイト】
国内サイトはキャンセル処理作業で下記のイメージ図ように、キャンセル金額を入力するor自動計算された金額を確認する画面が表示されます。各サイトの手順に従うだけで簡単に請求することができます。
ただし、お客様のカードからキャンセル料を徴収する方法はサイトにより若干異なるのでご注意ください。例えば、Yahoo!トラベル / 一休.com は、支払い済み予約料金とキャンセル料を引き落とした後で、支払い済み予約料金が返金される仕組みとなっており、他サイトの差額引き落としとは異なります。
【海外サイト】
ここでは、主要海外サイトとして、Booking.com、Expedia、Agodaを取り上げますが、海外サイトは国内サイトのように簡単な作業で完了することは少なく、お客様へキャンセルの承認作業の依頼や、予約サイトに申請が必要なケースがあります。海外サイトはサイトによりややこしく、ルールも変わることがあるので、常にサポートデスクに確認するなど慎重に対応する必要があります。
以下は、簡単に要約した内容です。今後、詳細の記事を執筆予定なのでしばらくお待ちください。
OTA名 |
キャンセル方法 |
徴収手順 |
特記事項・注意点 |
Booking.com |
• 管理画面から「予約キャンセルを依頼」 • 予約者の承認後にキャンセル確定 |
• キャンセル料適用の場合はカスタマーサービスに連絡 •または予約者に直接キャンセル依頼 |
• チェックイン48時間前までの制限あり • 48時間前を過ぎた場合はBooking.comカスタマーサービスが必要 |
Expedia |
• Expedia Collect(事前決済):お客様から直接Expediaサポートに連絡 • Hotel Collect(現地決済):施設側で予約消し込み |
• Expedia Collect:管理画面から支払いリクエストツールで請求 •キャンセル料はExpediaに請求する必要あり |
• 請求リクエストは1年以内の予約のみ可能 • 2024年1月以降、一部施設はExpedia Collect予約の変更可能 |
Agoda |
予約がキャンセルされた状況により異なる |
• 施設がカード確認していない場合:Agodaが自動徴収 • 施設がカード確認済みの場合:施設が金額確定後、Agodaに通知 |
• チェックイン予定日から72時間以内に処理必須 • オーソリゼーション(カード有効性確認)の有無で対応が変わる |
●Booking.com Partner Hub: https://partner.booking.com/ja
●Expedia Partner Central: https://apps.expediapartnercentral.com/ ●Agoda Partner Hub: https://partnerhub.agoda.com/ja-jp/
5.キャンセル確定後の再販施策─弊社の成功事例紹介
キャンセルを減らす方法はいくつかありますが、完全にゼロにする魔法の方法は残念ながら存在しません。特に現地決済や外的要因に左右されるタイアッププランは、どうしても一定のキャンセルは発生します。では、宿泊施設は何をコントロールできるのか。
その答えは、「確定の早期化」と「再販売の最適化」にあります。
◆ 宿泊施設にとっての「キャンセル」のイシューは?
問題なのは、キャンセルそのものではなく、「キャンセル確定が遅れることで、販売機会を逃すこと」こそが、宿泊施設にとっての最大の問題であり損失です。つまり、防止困難なキャンセル自体を減らすことよりも、自社でコントロール可能な「再販売力」(再販スピード×成約率)を高めることが最重要ミッションになります。
弊社が支援する施設様では、「再販売力」を高めることで成果を上げた事例があります。
ここでは、その考え方を簡単にまとめたものを紹介します。
再販成功のための3ステップ戦略
Step 1 キャンセル確定の早期化
自社の予約リードタイムを考慮し、キャンセル料発生タイミングを前倒しします。例えば「3日前から」を「7日前から」に変更するだけで、再販期間を倍以上確保できます。
Step 2 アラート・リマインダーの設定
キャンセル料発生直前に電話やショートメール等でのリマインド連絡を行います。「〇〇曜日からキャンセル料が発生します」という一言で、お客様の意思決定が明確になり、曖昧な「仮状態の予約」がほどけていきます。
Step 3 再販プラン細分化で成約率アップ
キャンセル確定後は、通常とは異なる販売戦略をもった宿泊プランを用意し再販率を高める方法もあります。一例として、下記の戦術が考えられます。
- 「訳ありプラン」の展開:客室指定なしで残室に割り当て
- 決済条件の見直し:事前カード決済のみで確実性を確保
- 食事条件の柔軟化:2食付き宿で「朝食のみプラン」や「素泊まりプラン」を追加販売
- 予約受付時間の延長:朝食付きプランや素泊まりプランなら当日○時まで受付など
注意点:すべての顧客層に適用してはいけない。
キャンセル規定を厳しくしたり、事前決済のみに限定する対応は、小さなお子さま連れのファミリーや高齢者層には不向きです。この層は「柔軟性」を重視するため、厳しい条件が予約離脱の要因になりかねません。対策は「すべてのプラン」ではなく、特定のプランから段階的に導入することが肝心です。
このように、「防げないキャンセルをどう活かすか」という発想の転換が重要です。キャンセルを敵視するのではなく、ビジネスサイクルの一部として組み込んだ戦略設計が、今後の宿泊業を生き抜くの重要な思考になるでしょう。
弊社のホームページで掲載している事例では、繁忙期のキャンセル率が、69.4%から実質キャンセル率39.1%に減少しました。この事例の詳細はコチラからご確認ください。
6.さいごに
宿泊業界に20年身を置く私たちは、「キャンセル」という言葉に日々向き合っています。近年、無断キャンセルや連絡が取れない「請求の拒否」など、モラルの低下を感じる場面も増えてきました。
少し前に、SNSで宿泊予約のキャンセルの認識について発言したアカウントが炎上した事例もあり、この問題の複雑さを物語っています。
一方で、予約した瞬間から宿泊施設では予約管理、部屋割り、人員配置、食材発注など、様々な準備作業が始まっていることを多くの消費者は知らないかもしれません。特に食事を提供する施設では、キャンセルによる損失は決して小さくありません。キャンセルは時に避けられないものですが、適切な連絡と理解があれば、施設側も次の対策を取ることができます。
本記事で紹介した「再販戦略」のように、キャンセルを単なる損失と捉えるのではなく、新たな販売機会として活用する発想の転換も大切です。同時に、業界全体として「〇日前からのキャンセル料発生」という明確な基準とキャンセル料の補填内容をもっともっと社会に浸透させることで、お客様と宿泊施設双方にとって公平で透明性のある関係構築が可能になるでしょう。
私たちは今後も、日ごろの業務のなかで宿泊施設や観光地の魅力を発信するとともに、お客様との相互理解を深める取り組み(納得感を高めるキャンセル規定の表示等)を進めていかなければならないと考えています。キャンセルは時に避けられない現実ですが、施設様とお客様、お互いの立場を尊重した取り決めと情報共有によって、より健全な宿泊業の発展に貢献できることを願っています。
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