ホテル・旅館のベジタリアン・ヴィーガン対応とは

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ベジタリアン・ヴィーガン対応で新しい顧客の獲得へメニューの考え方や認知拡大など取り組みに必要な4STEPを解説
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ベジタリアン・ヴィーガン対応で新しい顧客の獲得へ
メニューの考え方や認知拡大など取り組みに必要な4STEPを解説

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2024. 12. 12

最終更新 2024. 12. 13

ベジタリアン・ヴィーガン対応で新しい顧客の獲得へ<br>メニューの考え方や認知拡大など取り組みに必要な4STEPを解説のキービジュアル

目次

    新しい顧客層の獲得をお考えではないでしょか?

    今回は、好調のインバウンド集客の中から、食生活や価値観でターゲットを分類した「ベジタリアン・ヴィーガン」について取り上げたいと思います。

    まだまだ日本国内ではベジタリアン・ヴィーガン対応の宿泊施設は少なく、適切な対応と情報発信ができれば、自施設が選ばれる可能性をグッと高めることができます。
    ただ、ベジタリアン・ヴィーガンの対応は難しそうと思われる方が多いと思います。
    実は“ベジタリアン”は一括りではなく、程度の違いがあり、比較的簡単に対応することができる層が存在します。特に、ライトなベジタリアンへの対応は、世の中の「健康志向」の人すべてにアプローチできる非常に有効な取組みなので、朝食だけでも一部取り組んでみるという考えでも問題ないでしょう。

    本稿では、ベジタリアン・ヴィーガン対応について、4つのステップに沿って受け入れから情報発信までの手順を簡単に紹介していきたいと思います。

    ベジタリアン・ヴィーガンの受け入れステップ表

     

    事前情報:ベジタリアン・ヴィーガンはどれくらいいるのか

    そもそも、現在ベジタリアン・ヴィーガンはどれくらいいて、訪日外国人の何%くらいなのでしょうか。観光庁のデータから見ていきたいと思います。
    観光庁が2024年4月に公表された「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム 旅行者おもてなしガイド(資料編)」よるとベジタリアン・ヴィーガンは年々増加傾向にあり、2023年には約5.3億人(2018年から約10%増)に達しており、実は訪日外国人の約5.1%はベジタリアン・ヴィーガンの方なのです。

    増えている理由として、SNSで芸能人やモデルが食のライフスタイルを発信していることが影響して、以前より身近なものとなっています。環境保護、動物愛護、健康や美容を目的にベジタリアン・ヴィーガンであることを公表している国内外の著名人も沢山います。元ビートルズのポール・マッカートニーはベジタリアンとして、「ミートフリーマンデー(月曜日だけは肉を食べないようにする)」活動に参加しており、世界中で呼び掛けをしています。

    近年、健康志向や環境への意識が高まっているため今後さらにベジタリアン・ヴィーガンの割合も増えていくでしょう。

     

    STEP1. ベジタリアン・ヴィーガンの種類から対応レベルを決める

    まず自施設でベジタリアン・ヴィーガンのどのレベルまで対応をするのかを決めます。これが決まるとSETP2以降のメニューの考案、それ以外の対応も明確になります。

    そもそもベジタリアンとヴィーガンにはどのような違いがあるのでしょうか。
    ベジタリアン・ヴィーガンはどちらも動物性由来の食物の摂取を制限して菜食主義のライフスタイルを送る人を指します。その違いは”完全”菜食主義かどうかです。

    ヴィーガンの人は動物性由来の食物をすべて制限した「完全菜食主義」、ベジタリアンは制限する食材の種類によってさまざまな分類に分けられます。
    ※厳密な定義は個人や文化、宗教によって異なり、一概にこれと断定することは難しい点にご留意ください。

    下表は、認定NPO法人 日本ベジタリアン協会で紹介されているベジタリアンの種類と制限している食物を表したものです。

    ベジタリアン・ヴィーガンレベル表
    認定NPO法人 日本ベジタリアン協会「ベジタリアンの分類」を元に宿研が作成

    ベジタリアン・ヴィーガンのライフスタイルを選ぶ理由は宗教や動物愛護、環境保護、健康志向など人それぞれです。とりわけヴィーガンは動物愛護の精神を強く持つ人が多く、ハチミツやゼラチンなどの動物性由来の食物の摂取も制限しています。さらに上表に加えて台湾には、匂いの強い五葷※(ごくん)も摂取しないオリエンタル・ヴィーガン(ベジタリアン)のライフスタイルを持つ人が多いです。
    ※五葷:ニンニク、ニラ、ラッキョウ、玉ねぎ、アサツキなどのネギ科の植物。

    ベジタリアンの中でもライト層である、ラクト・オボ・ベジタリアンについて少しご紹介します。表にあるように、肉・魚以外は食べることができる方です。
    卵・乳製品の制限がないため、オムライスやパン、クッキーやアイスなどの製菓も制限がなく食べることができます。そのため、提供側として制限が少なく取り組みやすい層となるでしょう。まずは比較的ライトなラクト・オボ・ベジタリアンの層に向けて、取り組んでみると良いでしょう。

     

    STEP2. ベジタリアン・ヴィーガン対応の料理メニューを考える

    次にベジタリアン・ヴィーガンの対応で重要になるメニューを考えます。

    一般的なメニュー/ベジタリアンメニュー/ヴィーガンメニューなどと、それぞれにメニューを用意することやお客様に合わせて都度対応するのは難しいのが現状だと思います。それぞれをバラバラに考えてメニューを用意するのではなく、「共通点をみつける」ことが調理の負荷を少しでも減らす重要な視点です。

    そうすればベジタリアン・ヴィーガン対応のメニューを特別用意せずとも、今あるメニューから一部の食材を抜いたり、変更するだけでベジタリアン・ヴィーガン対応が可能になります。まず対応の第一歩として、今あるメニューを活用することからはじめ、徐々にベジタリアン・ヴィーガンに向けたメニューを豊富に揃えていくと良いでしょう。

    方法①食べられるものの共通点からメニューを考える

    イメージしやすいようカレーを例にしたいと思います。豚肉を使った「カツカレー」ですが、これをヴィーガン対応のメニューへ変更したいと思います。

    まず豚肉を除き、ルーを動物性不使用のものに変更します。これだけでヴィーガンの方が食べられるメニューになっています。ここにボリュームを増やすために、季節のお野菜やその土地で有名なお野菜をたっぷり使っていきます。すると、美味しそうな「たっぷり野菜カレー」の完成です。

    ヴィーガン対応カレー

    またメニュー名についても「ヴィーガン対応カレー」ではなく、「たっぷり野菜カレー」とつけることでベジタリアン・ヴィーガンの方だけではなく、幅広く色んな方に頼んでもらうことができます。このとき、ひと工夫として「たっぷり野菜カレー(動物性不使用だけど、コクのある味わい仕上げ)」などとPRすると良いでしょう。

    このように、食べられる共通の食材を利用するだけでベジタリアン・ヴィーガン対応のメニューをつくることができます。知らず知らずのうちに、ベジタリアン・ヴィーガンに対応しているメニューがあったり、簡単に代用するだけで対応できるメニューが日本食には多いので、一度提供しているメニューを振り返ってみてはいかがでしょうか。

     

    方法②クチコミから需要のあるメニューやアイディアを考える

    ベジタリアン・ヴィーガンのメニューを考えるための情報収集元として、ベジタリアン・ヴィーガンの方がよく利用しているクチコミサイトHappy Cowがおすすめです。ここでのクチコミを見てみると、お客様に喜ばれるベジタリアン・ヴィーガンメニューの傾向や提供料理名、どのような食材が入っているのかなどの情報が拾えます。

    喜ばれるものとしてポイントは2つ。

    • 日本の食文化が楽しめる「日本らしい料理」

    日本の食文化を体験したいと、日本を訪れる外国人旅行者は多くいます。日本の食文化とベジタリアン・ヴィーガン対応の両立ができる料理といえば、精進料理です。精進料理は、野菜や穀類、山菜、海藻、大豆加工品などを中心として、肉や魚を使わない植物性の食事です。精進料理からヒントを得たり、精進料理の代表的な料理をメニューにラインナップさせたりすることもよいでしょう。また、精進料理では肉や魚だけでなく五葷も使用しないため、オリエンタルヴィーガン(ベジタリン)の人も食べられるメニューとして提供できます。

    • 豊富なメニューからタンパク質を摂取できること

    タンパク質は体をつくる元となり、体のエネルギー源となる成分として大切な栄養素です。ただ、ベジタリアン・ヴィーガンの方の食生活ではどうしてもタンパク質が不足しがちになります。
    クチコミをみていると、このタンパク質の取り方、取れる量について言及する場面を非常に多く目にします。素材にタンパク質が少ないことに不満を感じている声や、反対にタンパク質を摂取できるメニューが豊富なことに満足感を得ている声がありました。「ベジタリアン・ヴィーガン=野菜中心」という認識が強いかもしれませんが、タンパク質を取り入れたメニューの豊富さはベジタリアン・ヴィーガンの方にたいへん喜ばれるでしょう。すぐにメニューを増やすことは難しいですが、メニューを増やすときには他の対応施設との差別化になるためタンパク質の取り方を意識してメニューを考えることは非常に重要です。

    ご参考にいただけそうなメニューを4つ紹介させていただきます。

    ▼ いなりあげ
    ヴィーガンいなり
    引用元:知っておくと便利!ヴィーガンおいなりあげの作り方とアレンジレシピ

    ▼ 高野豆腐のから揚げ
    高野豆腐のから揚げ
    引用元:【簡単レシピ】お肉じゃないのに食べ応えあり!植物性食材で作る「高野豆腐のからあげ」

    ▼ ひじきの豆腐ハンバーグ
    豆腐ハンバーグ
    引用元:米粉を毎日の食卓の献立に。ひじきの煮物×お豆腐に米粉を使ってベジハンバーグ!

    ▼ 豆腐で作るヴィーガンキッシュ
    ヴィーガンキッシュ
    引用元:タンパク質も摂れる!豆腐で作る、ヴィーガンキッシュ

    調理の際に注意すること
    ▶ キッチン・調理器具は可能であれば分けましょう
    必ず分ける必要はありませんが、調理器具等は
    しっかりと洗浄し肉類等の成分が混ざらないようにしましょう。

    きちんと洗浄したうえで使用している旨をポリシーとして明示しましょう。

    ▶ 出汁の扱いには注意しましょう
    鶏やカツオなど動物性由来の素材を出汁として使用しないようにしましょう。

    ▶ 原材料には気を付けましょう
    動物性由来の素材が使われていないか、調味料や加工商品等のラベルを確認しましょう。
    砂糖は製造時に加工助剤として動物の骨を使っている場合があります。

     
     

    STEP3. メニュー以外に欠かせない対応「ポリシーの提示」

    ベジタリアン・ヴィーガンの方に利用していただくために、どのようなポリシーで対応しているのか、またどのメニューが対応しているのかを表示することが重要となります。
    クチコミでも、どのようなポリシーで運営されているのかがわかること、どのような素材を使っているのかがわかることが高評価へとつながっています。

    対応ポリシーの記載

    ひとくちにベジタリアン・ヴィーガンといっても、個人ごとに規範の遵守範囲が微妙に異なります。ベジタリアン・ヴィーガンの人が自分の遵守範囲内で宿泊施設や飲食店を利用できるかどうか判断できるように、対応内容をポリシーとして明示する必要があります。

    ポリシーに明示すべき対応内容の一例は、下記(※)のとおりです。

    ● 使用している・していない食材の明示(豚の使用の有無等)
    ● 第三者機関による認証取得有無
    ● 専用の調理場・調理器具の使用の有無
    ● 対応メニューの有無
    ● 対応しているグレード
    ● 専用の食器カトラリーの有無

    ※引用元:観光庁「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム 旅行者おもてなしガイド」

    掲載場所として、食事をされる会場の入り口付近や目の付きやすい場所にポリシーを記載した紙を掲示したり、WEB上ではホームページへの掲載やSNSへの投稿をされている事例が多くみられます。

    メニューの表示方法

    • 多言語対応メニュー
    • 素材の記載
    • ピクトグラム

    ベジタリアン・ヴィーガン対応のピクトグラム

    多言語対応されたメニューで素材の記載があることはメニューを選ぶときの安心へと繋がります。またベジタリアン・ヴィーガン対応のメニューに、文字だけではなく絵文字のようなピクトグラムで記載をすることで、視覚的に伝えることができますのでぜひ実践してみてください。これはベジタリアン・ヴィーガン対応だけではなく、アレルギー対応にも活用することができます。中には、ベジタリアン・ヴィーガン対応のメニューにオリジナルのVマーク※を利用しているお店もあります。
    ※Vマーク:ヴィーガン(Vegan)対応を表すマーク。認証機関からヴィーガン商品として認証を受けて使用できるものもあれば、認証機関の認証が無くてもオリジナルで作成が可能である。

    メニュー以外にも、食べられないものを指差しで伝えることができるカードをピクトグラムを使って用意しておくと、言葉の壁があってもお客様とスタッフのコミュニケーションがスムーズ取れるようになります。

    STEP4. ベジタリアン・ヴィーガン対応をPRする

    ベジタリアン・ヴィーガン対応の体制を整えたら、ターゲット層に届く方法でPRをしましょう。

    下表は、観光庁の「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者 おもてなしガイド(資料編)」で発表された、ベジタリアン・ヴィーガンの人がよく利用する情報収集の方法と回答者の割合を示したものです。


    観光庁「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者 おもてなしガイド(資料編)」を元に宿研が作成

    家族や知人との会話を除くと、クチコミサイトやGoogle Map、SNSなどから情報収集をされていることがわかります。ベジタリアン・ヴィーガンの旅行者が利用する媒体へ積極的に発信することによって、必要とする人に届く可能性が格段に高まるでしょう。ここからは効果的にPRできる媒体の種類と、それぞれで対応すべき内容を解説します。

     

    クチコミサイトやGoogle上でPR

    クチコミサイトやGoogleMapをはじめとする地図サイトの情報は、ベジタリアン・ヴィーガンの方がよく参考にするツールです。ベジタリアン・ヴィーガンの方が使う頻度の高いプラットフォームを選び、情報を記載することがターゲット層に情報を届ける近道です。

     トリップアドバイザー(クチコミサイト) 

    世界最大の旅行クチコミサイトです。
    ▶ トリップアドバイザー:https://www.tripadvisor.jp/

    トリップアドバイザーTOP画面

     
    トリップアドバイザーでは「ベジタリアン等対応」でソート検索ができます。オーナー登録で食材別メニューの項目を「ベジタリアン対応」や「ヴィーガンメニュー」に変更するだけでソート検索でヒットするようになります。

      Happy Cow(クチコミサイト) 

    世界最大級、ベジタリアン・ヴィーガン対応のレストランの検索・クチコミサイトです。
    日本の飲食店も約4,000店が登録されています。
    ▶ Happy Cow:https://www.happycow.net/
    HappycowTOP
     
    日本語対応をしていないサイトですが、登録は無料で行うことができます。
    岩手県庁が「Happy Cowの新規登録マニュアル」を用意されているようですのでぜひご確認ください。
     
    登録後にHappy Cowからの審査があり、審査にあたってオンライン上に
    ベジタリアンメニューの掲載があるかどうかも基準となるため
    自社ホームページやSNSにメニューを出しておくことが必要です。

      Googleビジネスプロフィール 

    Googleマップ上に宿情報が登録できる機能です。
     
    ビジネスプロフィールの設定にある「ホテルの詳細」⇒「サスティナビリティ」⇒「持続可能な調達」内に、以下の項目があるので、該当にチェックをします。

    責任ある購買ポリシー
    ・自然食品と自然飲料

    地元の食材を使った食品と飲料

    ・ベジタリアン料理
    ビーガン料理
    ほか

    ※2024年12月時点の情報です。ビジネスプロフィールの設定方法は頻繁に変更されるのでご注意ください。

     

    自社ホームページやSNSでPR

    自社サイトや自社のSNSアカウントでベジタリアン・ヴィーガン向けの料理やサービスを投稿するのも、おすすめのPR方法です。

    SNSでは、ベジタリアンやヴィーガンに関連するハッシュタグを利用すれば、フォローに関係なくいろんな方へ投稿が表示されることから顕在層だけでなく、潜在層にもアプローチできます。欧米圏の顧客を集客したい場合は英語を。台湾の顧客を集客したければ台湾語と、集客したい顧客にスポットを当てて情報発信ができるのもSNSによるPRのポイントです。

    自社サイトでは、ベジタリアン・ヴィーガンの対応メニューがあることを記載しましょう。メニューの記載とあわせて、ポリシーの記載をしておくことで事前に確認することができるためベジタリアン・ヴィーガンの方にとって安心できる情報となります。

     

    さいごに

    一見難しいように感じるベジタリアン・ヴィーガンの対応ですが、食材を食べられる共通のものに変更するだけで簡単に対応できることが分かったのではないでしょうか。

    価格について、当然調理の手間が発生するため通常価格よりは高いことが多いです。このことは、ベジタリアン・ヴィーガンの方も容認しているようなので、手間の分は価格に転嫁しても問題ないでしょう。ただ、あまりにも高額にするのは避けた方がよいです。

    ベジタリアン・ヴィーガンの対応は、いつもより体にいいものを取り入れたい、ヘルシーな食事をしたいなど、普段とは違う体験を旅行先で求める方にも提供できる価値となります。特に、朝の健康的な食事は、充実した1日の始まりを感じることのできる満足度の高いサービスに成り得ます。

    訪日外国人客に多いベジタリアン・ヴィーガンのお客様だけでなく、健康志向という文脈においてサービス提供することは新たな顧客層の開拓と顧客満足度の向上に寄与することでしょう。

     

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