顧客満足度を向上させる3つの行動と組織運営の2つのポイントを解説!
2024. 10. 03
最終更新 2024. 10. 10
目次
近年、視覚的に宿泊施設の魅力を伝える表現方法が高度化したことで、予約段階でのお客様の期待値が上昇しやすい環境になっています。また、どの宿泊施設の設備も高品質化と類似化してきており、顧客満足度を向上させることが容易ではなくなっています。
周知の通り、顧客満足度はお客様の喜びや満足感に貢献することで、リピート率の向上やクチコミによる新規顧客の獲得など、施設の収益性向上に繋がり、結果として長く事業を営むための重要な指標となります。
この顧客満足度は、予約時の期待値と実際の宿泊体験のギャップが関係しているのですが、鍵となる宿泊体験を向上させる強力な経営資源が存在します。
それは、人(スタッフ)です。
現場のスタッフの方の行動は、他社とは異なる宿泊体験や顧客ニーズを臨機応変に提供・対応できる唯一の経営資源です。そのこともあり、ホスピタリティ産業において、顧客満足度を向上させるスタッフの行動を再現性高く実行するための行動指針や、接客マニュアルなどの組織内ルールを構築することは極めて重要といえるでしょう。
そこで本稿では、顧客満足度を高められるスタッフの3つの心がけと、ひとつ視座を上げ、満足度を再現性高く実行できるようにするための組織運営のポイントをザ・リッツ・カールトンや、和倉温泉加賀屋の事例を紹介しつつ解説したいと思います。
宿泊施設の顧客満足度はどう決まる?
ます最初に、基本的な知識として顧客満足度の知覚構造を紹介したいと思います。先に触れましたが、顧客満足度はお客様がサービスに対して抱いた期待(期待水準)とサービスを受けた後の評価(知覚水準)の差がどれだけあるかによって決まります。つまり、知覚水準が期待水準を上回れば顧客満足度は高く、反対に知覚水準が期待水準を下回れば顧客満足度は低くなります。
このことから見逃してはいけないこととして、自社がホームページや予約サイト(OTA)上で、消費者に対しどのような期待を抱かせているのかを認識しておく必要があります。この認識は、当事者の宿泊施設側では分かりにくいので、客観的な目線で意見を収集できる機会をつくっておくことを推奨します。「そんなつもりはなかったのだが」という事柄が見つかるかもしれません。
宿泊施設の顧客満足度を高められるスタッフの3つの心がけ
顧客満足度を高めるための基本的なポイントは「笑顔の接客」「清潔な身だしなみ」「落ち着いた動作」「丁寧な言葉遣い」などです。お客様の知覚水準を高め、顧客満足度の向上につなげるためには、この基本的なポイントを押さえた上で次の3つの行動を意識することが必要です。
1.自施設が提供しているモノ・コトと地域のことの深い知識
すでに多くの施設で取り組まれていると思われますが、自施設が提供しているサービス(食事内容、設備ほか)や周辺地域の歴史や観光スポットなどの様々な知識を深く理解しているスタッフの話は、お客様にとって非常に興味深いものです。これらの深い情報の見聞きはお客様にとって希少な体験となり、最終的に顧客満足度の上昇につながる一因になるでしょう。社内研修の徹底や定例ミーティング、勤務引継ぎの場面など、スタッフ同士のコミニケションが図れる機会で小まめな情報共有をする仕組みを構築しておきましょう。
2.お客様との接点機会を増やす
お客様との接点を増やすことも顧客満足度の上昇につながります。
人には特定の人物や物事に何度も接触すると、好感や親近感が高まっていく心理的傾向(ザイオンス効果)があります。お客様と簡単な接点を何度かもつこと、そしてそのなかで、小さなことでもお客様を気に掛ける言動を身に付けておくことです。
「○○はどこにありますか?」と店や物などの探し物を尋ねてこられたお客様に、後ほど「見つかりましたか?」と声をかけると気に掛けるなど、特別な対応はなくても自然な形で接点機会をもつ心がけが必要です。
ただ、顧客接点を増やすことについては、お客様の滞在目的をよく考慮し判断する必要があるのでご注意ください。
3.お客様の状況を少し先の未来まで想像する
ワンランク上の接客で顧客満足度をアップさせるためには、お客様の状況を少し先の未来まで想像できる観察力や洞察力が必要となります。高級ホテルのザ・リッツ・カールトンのリピート率は40~50%ですが、驚異のリピート率はお客様の期待水準を十分に満たす接客によるものです。ザ・リッツ・カールトンの接客として、お客様の期待水準を上回った有名な事例を紹介します。
アメリカ・フロリダ州のザ・リッツ・カールトンに宿泊したお客様がスタッフに「今夜プロポーズをしたいから、ビーチチェアを1つ残しておいてほしい」とお願いしました。それに対して、ザ・リッツ・カールトンのスタッフは次の3つの行動を起こしました。
2. プロポーズの際に男性の膝が砂で汚れないように、ビーチチェアの前にタオルを1枚用意した。
3. タキシードに着替えた後、手に白いクロスをかけて、カップルを待っていた。
これらの行動は全て「プロポーズをしたいから、ビーチチェアを1つ残しておいてほしい」という一言から生まれた心遣いです。この対応はどの施設にでも出来る内容ではありませんが、お客様の言葉から少し先の未来を細部まで想像し「どう接客するのがベストか」を常に考え、アクションをする意識が必要です。
顧客満足度を高めることができる組織運営のポイント
顧客満足度を高めるためのスタッフの行動は、スタッフ個人の経験・能力に依存させないよう、一定以上の対応の質と再現性高く行動できるようにするために、組織運用のレベルで仕組みを構築する必要があります。今回、その仕組みを構築する上で重要な2つのことを解説します。
① 接客の目標(モットー)や行動指針(姿勢)を言葉にしておく
・自施設でどんな経験をしてほしいのか
・これらをどうやって達成するのか
・何を先優先させるべきか(判断基準)
これらを誰にでも分かる言葉で明確に定義し、全員の共通認識として浸透させる。
② スタッフが独自で判断できる権限の範囲を明確にしておく
・スタッフ独自の判断はどこまで許されるのか
(いくらまでの費用なら独自判断できるのかなど)
スタッフ一人ひとりの長所を活かすために。画一的でなく、それぞれのスタイルでバラエティー豊かにおもてなしができるように、個人で判断してもよい範囲を明確に。
実際に顧客満足度が高い宿泊施設ではこれら目標(モットー)が明確であり、そのための方向性(行動指針や姿勢)も定義され、接客対応に高いレベルでの一貫性が生まれています。一例として、顧客満足度の高い宿泊施設「ザ・リッツ・カールトン」と「和倉温泉 加賀屋」の例をご紹介します。
ザ・リッツ・カールトンの接客のモットーは、「紳士淑女をおもてなしする私たちもまた、紳士淑女である」です。この言葉を聞くだけでスタッフが取るべき心構えがはっきりと分かると思います。
そして、このモットーを継続的に実現させるための指針を「クレド」というカードに記載し従業員全体で共有することしています。
このクレドカードの中には、『ザ・リッツ・カールトンでお客様が経験されるもの。それは、感覚を満たす心地よさ、満ち足りた幸福感そして、お客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしてお応えするサービスの心です』の一文があり、お客様にどうなってもらうのか、そのために何を意識するのかが明文化されています。
さらに、ザ・リッツカールトンでは、お客様の感性を満足させるのに必要なサービスであれば、スタッフ個人の判断でサービスを提供しても構わない「1日2,000ドルの決裁権」という仕組みがあり、スタッフ権限の領域も明確化されています。これはホテル側がスタッフを信頼している証であり、信頼され一定の自由が与えられたスタッフは能動的な判断で動けるようになります。この一連の取り決めが顧客満足度を自然に高める仕組みになっています。
和倉温泉 加賀屋のモットーは「笑顔で気働き」です。そして、おもてなしの行動指針は「相手の意を読み取り、先回りして意を現実のものとして差し上げる策を持つこと」と定義付けされています。さらに、和倉温泉 加賀屋では「お客様の満足は、マニュアル半分。残りは自分の感性や現場の力で100にする」とスタッフに伝えられています。顧客満足度を上げるためのマニュアルは接客の基礎ですが全てではありません。100のうちの半分はスタッフ個人の感性によるものと理解しており、ここでもスタッフを信頼し裁量を認めていることが分かります。
ただ、個人の判断による対応は経験や感性によって生み出されるため、属人的になりがちです。そこで和倉温泉 加賀屋では、同僚たちの事例やアイデア、クレームを共有しておもてなしを「見える化」することでこの課題を少しでも解消し、顧客満足度向上につなげています。
この重要な①・②については、宿泊業以外の業態においても、顧客満足度の高い企業に共通する事柄と言えます。
・目指すべき姿をはっきりさせ、何に全力投球するのか決めている。
(やらないことを決めている。)
・顧客対応するスタッフへの信頼を企業側が何らかの行動で示している。
代表的なのはスターバックスやディズニーリゾートです。お時間あるときに是非調べてみてください。
さいごに
顧客満足度について他業界に目を向けてみると、サービス産業生産性協議会が毎年発表している「顧客満足度調査(JCSI)」に例年名を連ねている企業では、スタッフに提示している接客・対応マニュアルが他社より優れていることが顧客満足度に繋がっているというわけではありません。それらの企業では、企業戦略という視座の高い議題の中で、顧客満足が生まれる仕組みが構築されています。その仕組みの中でどのようなモットーを大切にし、そのモットーを実現するための行動指針、価値の基準が明確に定められています。そして、働くスタッフはその明確な行動指針を基準に考え、動けば自然と顧客満足度に繋がるようになっています。
現在の宿泊業界は人材の出入りが多くまた、外国人スタッフも増え、価値観や考え方が異なる組織体制になりやすい状況です。それにより、目先の対応マニュアルが先行し、自社のモットーや行動指針がただの飾り言葉で終わりやすくなります。そもそも、それらモットーや行動指針がない場合もあるのではないでしょうか。
すでに自社の接客のモットーや行動指針がある施設は再度見直し、上位概念のモットーや行動指針と、下位概念の対応マニュアルとの整合性が取れているかの確認やブラッシュアップ、再周知することを。モットーや行動指針がない施設では、それらを作り言葉に起こすことを。そして、両者共に行動指針の中にスタッフ個人に裁量を与え、その範囲も明確にすることをここではご提案します。
冒頭でお伝えした通り、現場で働くスタッフこそ他社とは異なる宿泊体験や顧客ニーズを満たしてくれる貴重な経営資源です。経営者やマネージャーの方はスタッフに基本理念を正しく伝え、部下からアイデアが湧いてくるような組織にすることが、自社独自のサービス提供と価値向上の源泉となるでしょう。